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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.75『海と毒薬』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1986年 日本映画 熊井啓監督 『海と毒薬』
 
黒白であるべき映画。黒白で救われた映画。
カエルの解剖すら怖気づくのだから、カラーなら到底見られない。
遠藤周作の原作を、社会派の熊井啓監督が
構想から17年後に完成させた力作である。
 
太平洋戦争末期の1945年、
九州の或る大学の医療機関で
研究と診療の日々を送る、二人の医学部研究生。
奥田瑛二扮する繊細でやさしい勝呂と、
渡辺謙扮する利己的な戸田、中背の優男と長身の強面、
この二人、精神面に於ける己の人生を左右する
出来事に対峙することとなる。
米軍捕虜を生きたまま解剖するという実験に
参加を余儀なくされるのである。
 
海と毒薬.jpg 海と毒薬 (2).jpg
 
メイン・テーマに至るまでの、
この時代の医療機関の日常描写は心に迫ってくる。
重い病に罹患したら、死とは隣り合わせ。
”with COVID-19”までも、”病との共生”などあり得ない時代であったと
見せつけられると、改めて身震いがする。
 
男性陣は田村高廣、成田三樹夫、西田健など名優が揃っているが、
今回、観なおして注目したのは女性陣。
看護師長を演じた岸田今日子、ワケアリ看護師の根岸季衣、
勝呂が執着する最初の患者に扮した千石規子、
生々しく緊張感あふれる存在感が素晴らしい。
 
海で始まり、海で終わる、贖罪なき物語。
続編を撮れないまま、熊井監督は亡くなってしまった。

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