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『C.R.A.Z.Y.』 [映画]

昨年12月25日に58歳の若さで亡くなったジャン=マルク・ヴァレ監督
2005年の作品である本作は、同じ日である
クリスマスを誕生日にもつ少年の物語。

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舞台となるのはカナダ・ケベック州、
1960~1980年に渡る。
主人公ザックが母の胎内から生まれるべく
動き出すシーンから、映画は始まる。
父と三人の兄は飾りたてられた部屋で
”Choo Choo Train”真っ最中。なにせ、クリスマス!

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タイプの異なる三人の兄をもつ主人公の、
鬱屈したやり場のない思いが幻想もまじえて描かれる。
音楽好きの父親の影響で、自分なりの音楽世界を築いていくザック。
そのうち、兄たちとは違う自分だけの趣向に気づき、戸惑うことに。
惜しみない愛情を注ぐ母よりも、
自分の理想像を息子に当てはめて
評価の対象にする父を慕う主人公。
届かないものを追い求める気持ちは
わかるだけに遣る瀬無い。

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一枚のレコードに絞られた想い。
タイトルであり、テーマソングとも言える、
せつないラヴソング”CRAZY”
パッツイ・クラインのヴァージョンである。
ウィリー・ネルソンの書いたこの歌い手冥利に尽きる一曲は、
ジャズ系シンガーのカヴァーもあり、
美加もいつか歌ってみようかと思っている一曲。

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せっかく揃った五人兄弟、
ヴィスコンティの傑作『若者のすべて』(60’)よろしく
一人ひとりチャプターに分けても面白かったかなとも思えるが、
ヴァレによるドラマティックな既成曲活用により、個性的な演出となった。

LGBT映画と言い切るにはピースが多く、
多面的な感じかたが出来る一作だが、
監督のリベラルな立ち位置が色濃く感じられ、
ハリウッドで成功してからの
『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)
『雨の日は会えない、晴れの日は君を想う』(2015)にも
繋がっていく貴重な作品と信じる。

7月29日(金)より
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他にてロードショー
2005/カナダ、モロッコ/フランス語、英語/カラー/129分 映倫:PG12 
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
原題:C.R.A.Z.Y. 配給ファインフィルムズ 
[コピーライト] 2005 PRODUCTIONS ZAC INC.

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『シチリアを征服したクマ王国の物語』 [映画]

毎週一作ずつ、
ラジオ番組”美加のNice’N’Easyタイム”で
新作映画を紹介して17年目に入るが、
ブログやSNSではシネマ・クラシックス(旧作)を紹介することが多く、
新作は久しぶり。

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イタリアのクリエイター、
ロレンツォ・マトッティが監督&グラフィック・デザインを手がけた本作は、
めくるめく色彩の世界へ飛び込んだかのような感覚に、
暫し現実を忘れる体験の出来る一作!

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フェリーニ、パゾリーニ、
オーソン・ウエルズを敬愛するというマトッティ監督の紡ぎだす
アニメーションはデザイン性が高く、
観客の想像力を煽る魅力満載。
平面的な拡がりのある構成と、
あふれ出る色彩に飲み込まれるうち、
真の物語が見えてくる!

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キャッチ・フレイズは”クマはハダカのほうがいい”
二転三転するストーリー・テリングに翻弄されながら、
ほっこり、しんみり、そして、にっこり。
さあ、クマたちが山を下りてくるぞ!

[コピーライト]2019 PRIMA LINEA PRODUCTIONS - PATHE FILMS - FRANCE 3 CINEMA - INDIGO FILM
<公開表記>
2021年1月14日(金)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
<提供>
トムス・エンタテインメント、ミラクルヴォイス
<配給>
ミラクルヴォイス

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『ジャズ・ロフト』 [映画]

ジャズ・ミュージシャンの姿を捉え、
注目されたフォトグラファーは数あれど、
ジャズ・ミュージシャンにセッションの場を提供し、
自由に演奏する彼らの姿を撮影・録音し続けたフォトグラファー、
ユージーン・スミスは稀有な存在。
本作は、サラ・フィシュコ監督による、
1950年代ニューヨークの、
むせ返るような熱気が伝わってくるドキュメンタリー。

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1918年生まれ、戦場カメラマンとしての活動後、
絶大なる影響力を持っていた『ライフ』誌で活躍、
写真家としての地位を築いていたのにも拘わらず、
1950年代半ばにはマンハッタンのロフトを借り、
なんと8年もの間、ジャズ・ミュージシャンたちの姿と
音に向き合い続けたユージーン・スミス。
メジャーな仕事や家族から離れ、
ジャズと接することで、得たものとは・・・?

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数々の証言、多くのエピソードが並ぶが、
もっとも意外であり心うごかされたのが
”変人”ぶりでも知られたセロニアス・モンクの逸話。
ジャズ・ロフトでのリハーサル中、
どうしてもスウィング感を出せなかったホーン奏者が
「休憩中、モンクは私のパートをステップで踊ってくれた。声を上げて恥をかかせず、
スウィングを示してくれた。休憩後、彼の踊った通りにプレイしたよ!」というもの。

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窓に朝の光がさし染めると、みな家に帰って寝た。
昼夜がひっくり返ったミュージシャンの暮らし。
日本のミュージシャンも昔はそうだったと、
亡き我が父からよく聞いたものである。
今に言わせれば、不健康そのもの、
それでも日々あたらしい音が生まれていたのであろう、
ジャズ・ロフト。
我が父・巨泉が存命なら、
ぜひ観て欲しかった一作である。

10月15日より Bunkamura ル・シネマ他全国順次公開

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『BILLIE』 [映画]

ビリー・ホリデイについては、
すべてを知っているつもりだった。
知らなかったこと、知りたくなかったこと、
謎めいた死を遂げた若きジャーナリストの
リンダ・リプナック・キュールが突きつける。
監督・脚本はジェームズ・エルスキン。
少女時代にレイプされ、売春に身を染めたこと。
酒とドラッグに溺れ、命を縮めたこと。
 レコーディング中も酒びたり、
ヴァース(導入詞)の歌詞を覚えられなかったことは、
知っていたけれど。

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渋いピアニストで歌もうたえるジミー・ロウルズが、
ビリーと楽屋で懇ろになっていた経緯について証言する。
「コードを直してくれと言われて楽屋に行くと、
               彼女は靴以外、身に着けていないんだ」
 あまりに具体的すぎて、目を瞑りたくなる。
ジミーがビリーの愛唱曲を集めたアルバム”KINDA GROOVY!”は
我が愛聴盤であるが、そうか、惚れちゃっていたのかあ・・・
 
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ビリーがマゾヒストというだけでなく、
サイコパスでもあったと、証言する声、声、声。
ひどい仕打ちをする男を愛し続けるという内容の歌は
ビリーの得意とするところであるから、
自虐性はわからなくもないが、
サイコパスという言葉には、思わずひるむ。
トーチ・ソングを歌うため?
いやいや、それだけじゃないはず!
 
ビリーの音源は、若く溌剌とした歌声のコロムビア時代から、
痩せてぼろぼろの鬼気迫るヴァーヴ版まで所持しているが、
いずれも、全く別ものの良さがある。
決して哀しいだけの歌声を遺したのではない。
 
「私は1日で100日を生きようとする女」と語る、ビリーの声。
そうね、これだけはすこし、わかった気になろう。
「1日で100日分の幸せを生きようとすること」
”LADY DAY” わたしは、これを目指すわ!
幸せの意味は、一人ひとり違うだろうけれど。
 
2021.7.2(FRI)―7.15(THE)

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『マジック・ランタン・サイクル』 [映画]

おん年94歳、生きながらにして伝説の映像作家
ケネス・アンガーの短編9作品を集めた『マジック・ランタン・サイクル』(’81.米)が
HDリマスター版でリヴァイヴァル上映される。
さすが、デレク・ジャーマンを我が国に紹介したアップリンク浅井隆氏の企画。

アンガーは1927年カリフォルニア州サンタモニカ生まれのドイツ系アメリカ人。
10代から超自然現象や儀式魔術に興味をもち、
アレイスター・クロウリーが説いたセレマの信奉者となり、オカルトへの探究心は
映像作家としてのライフワークともなる。

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1940年代から映像制作を続け、ジャン・コクトーに賞され、
のちにはデレク・ジャーマンやデイヴィッド・リンチらにも影響を与えたアンガー。
本作は長年に渡り改訂が続けられ、1980年に完成、日本では1995年に初公開。
『人造の水』(’53)、『スコピオ・ライジング』(’63)、
『ラビッツ・ムーン』(’50)、『花火』(’47)など、興味深い作品群。
イメージが次から次に押し寄せる短編集は、脳が覚醒する。

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1960年代にはロック・ミュージシャンとの交遊が盛んになり、
やがてはローリング・ストーンズ、後にマンソン・ファミリーの一員となるボビー・ボーソレイユとも
映像制作をしたアンガー。ミック・ジャガーとは『我が悪魔の兄弟の呪文』(’69)、
ボビー・ボーソレイユとは『ルシファー・ライジング』(’73)でコラボレイション、
今回は一気に観ることが叶う。
祈りが必要なこの時世、神に祈るか、悪魔に祈るか???

3月12日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、
アップリンク京都ほかにて全国順次公開


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