SSブログ

”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.81『浮雲』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1955年 日本映画 成瀬巳喜男監督 『浮雲』
 
成瀬映画の女性たちは美しい。
女優の個性を活かす名人。殊に高峰秀子。
子役時代からのキャリアを誇ったこの名女優の、
様々な顔を見せてくれる。
林芙美子原作の映画化は何作も手がけている成瀬監督の、
海外でも特に評価の高い一作。
 
”腐れ縁”という厭な言葉が纏わりつく。
娘時代の爛れた性体験により、
若くして半ば人生を投げやりなものにしている主人公ゆき子。
それでも、単身渡った仏印の地で知り合った妻ある男との関係が、
ここまで”腐れ縁”となるとは、予想外ではなかったか。
 
浮雲.jpg 浮雲 (2).jpg 浮雲 (3).jpg
 
高峰秀子の端正な横顔を、黒白画面が引き立てる。
清楚な面差しと、やや崩れた響きの声のアンバランスが唯一無二。
妻ある富岡を演じた森雅之も、多くの名匠たちに起用された俳優。
”シネマフル・デイズ”No.79『雨月物語』では京マチ子の相手役を務めた。
大スター女優の相手役をこなせる役者。主演では黒澤作品『白痴』(’51)が白眉!
 
恋愛については、自分自身にルールを課してきた。
もちろん、ルールを破りたくなったことはある。
成瀬映画の女たちは、ふたつの後悔に苛まれる。
してしまったことへの後悔、そして、出来なかったことへの後悔。
本作のゆき子は限りなく哀しいヒロインだが、
”出来なかったことへの後悔”はなかったに違いない。

nice!(0)  コメント(0)