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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.68『イル・ポスティーノ』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.68『イル・ポスティーノ』
 
1994年 イタリア映画 マイケル・ラドフォード監督『イル・ポスティーノ』
(IL POSTINO)
 
 ”隠喩”に魅せられた、郵便配達夫の物語。
1950年代、限りなく美しい海に囲まれたカプリ島。
殆どの住民が文盲であり、
漁師の息子ながら文字の読めるマリオは、
郵便配達夫の仕事を得る。
手紙を届ける相手はたった一人、
折しも母国チリを追われてこの島にやってきた
大詩人パブロ・ネルーダその人。
高名な芸術家でありながら、
何処か茶目っ気のあるネルーダと言葉を交わすうち、
詩の魅力を知るマリオ。
 
イル・ポスティーノ.jpeg イル・ポスティーノ②.jpg
 
公開時に観たときと比べ、
今回観なおして余情があふれだす。
ラスト・シーンに涙が止まらない。
二人の子を懸命に育てながらステージに立っていた当時、
他の感情は忘れていたのか、
それとも後進指導の仕事をしていなかったからか。
誰かに影響を与えるということの重さ、
他者の人生を変えてしまうかも知れない怖さが、
押し寄せる。
 
 
マリオ役が遺作となったマッシモ・トロイージの演技には、
『ブラック・レイン』に於ける松田優作とは異なる緊迫感があり、
巨匠たちに愛された名優フィリップ・ノワレは
実際にイメージの似通うネルーダを楽し気に演じきる。
 
オスカー(作曲賞)を受けた、
心の琴線に触れるテーマソングは、
フェリーニがニノ・ロータ亡きあとに望んだコンポーザー、
ルイス・バカロフの手になる。
旅に行きにくいこの時世、
この海、この旋律、この情感に身を委ねよう。

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