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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.176『奇跡』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1954年 デンマーク映画 カール・テオドール・ドライヤー監督
『奇跡』(ORDET)

空の広い田園風景から、
窓辺であどけなさの残る面差しの青年が
ベッドから起き上がるファースト・ショット。
地主の三男坊である。
彼は老齢の父親を起こし、
長男の嫁、長男が起き出す。
皆、乱心の次男がまたもや徘徊しているのかと、
案じているのである。
舞台劇さながらに徐に登場する人物たち。
無駄を省いた、静謐な画面構成。

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大きなお腹で一家を担う長男の嫁は、
幼い二人の娘を育てながら、
頑固なやもめの父親、無信仰の長男、
自らをキリストと信じ込み乱心とされる次男、
宗派の違いにより結婚を許されない娘と
恋仲になっている三男を抱えている。
彼女の気苦労を知るはずの父親は、
「息子を産むこと以外は何でも出来るんだな」などと、
残酷な言葉を吐く。然もユーモラスに!

奇跡2.jpg

落胆も、希望も覆い隠して、淡々と描かれてゆく一家の運命。
”Key Person”は長男の幼い長女。
彼女の微笑みが、すべてを贖う。
無邪気な救いの微笑み。
”無垢”な存在のみが救済となるというテーマは、
この後も映画のなかで永遠に受け継がれてゆくことになる。
映画こそ、奇跡!

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