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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.178『恐怖と欲望』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1953年 アメリカ映画 スタンリー・キューブリック監督 『恐怖と欲望』
(Fear and Desire)

スタンリー・キューブリック作品は”名画座少女”時代に、
『ロリータ』(’62)『博士の異常な愛情』(’64)
『2001年宇宙の旅』(’68)『時計じかけのオレンジ』(’71)
『バリー・リンドン』(’75)などなどを観て、熱狂した。
ハリウッド・デビュー作として、『現金に体を張れ』(’56)が
再上映されたのはいつだったか?
確かに劇場で観た記憶があるが、1980年代だったのだろうか。
これがキューブリックの原点かと膝を叩いたもの。ところが・・・

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本作『恐怖と欲望』は、
映画チャンネルで録画し、
今回改めて観なおした。
はたして名画座で上映されたのか
どうかはわからないが、
キューブリックの長編デビュー作として
残っている一作。
日本語タイトルはカタいが、
原題は”RHYME”が踏まれ、発音しやすい。
ジャズソングの歌詞に出てきそうな調子。
全編にナレーションが付けられ、
「この物語は普遍的な寓話である」と
ことわられているため、
何となく気軽に観てゆくが・・・

とんでもなく裏切られる。
戦争の愚かさ、酷さを、
残酷なお伽話のように
見せてゆくキューブリック。
何といっても、
のちに映画作家として活躍する
ポール・マザースキーが、
タイトルの”恐怖と欲望”に翻弄される
若い兵士に扮しているのが見どころ。
”少女”がキイとなるあたり、
晩年の『フルメタル・ジャケット』(’87)とも
響き合うじゃないか!

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泣初となりし詩人の歌集かな 魅歌 [日記・雑感]

泣初(なきぞめ)と読む季語。
読み手を泣かせようとして書いたものでは、
美加は泣かない。
想いを真っ直ぐに伝えようとする読み物に触れると、
壊れた水道みたいになってしまう。

2021年1月に没した詩人・相澤啓三氏の遺歌集が届いた。

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再婚の母許さざる少年の背筋を堅くとはに地吹雪

きみと手を握って眠る習はしが闇に落ちこむ怖れを支ふ 

五文字でも七文字でも詠み出だす意志をリハビリの最優先にせよ

これは三分あれは五分咲き コロナ禍で人なき並木の花ほしいまま

サルビアの赤あざらけく大輪の薔薇は咲くほどに片崩れしつ

人は人に会ひて人と成るその本然がパンデミック後のしるしとなれよ

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贈ってくれたのは、
我がジャズ・ヴォーカルの師匠とも呼ぶべき金丸正城氏。
多くの人に読んで欲しい、
コロナ禍をも詠んだ貴重な遺歌集と信じる。  

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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.177『記憶の棘』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

2004年 アメリカ映画 ジョナサン・グレイザー監督
『記憶の棘』(Birth)
 
あとを引く映画。
今回、公開時から17年ぶりに観なおしたが、
結末が分かっていても、やはりあとを引く。
これは、ミステリー・タッチの作品としては、
かなり珍しい例である。
 
脚本が、ジャン・クロード・カリエールなのである。
ルイス・ブニュエル作品を随分と手がけた人。
ブニュエルの舎弟(笑)
過去のブニュエル作品に比べれば、
それほど奇妙とは言えないのだろうが、
スターのニコール・キッドマンがヒロインを務め、
母役がローレン・バコールとなると、
 ハリウッド映画にもカテゴライズされるわけで、
稀有な、貴重な一作と呼ばれるべきなのだろう。
 
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タイトル・バックに響く男の声。
「もし妻が死に、翌日に鳥が飛んできて”貴方の妻よ”と
言ったとしたら、僕はその鳥と暮らすだろう」
ランニング中に倒れる男のショット。
墓前に佇む、ボーイッシュなショート・ヘアのニコールの姿。
 
ニコール・キッドマンの作品は殆ど観ているが、
これほどのショート・ヘアは本作だけではないだろうか。
180cmの長身ゆえ、
ますますノッポに見えるがよく似合い、
演技も際立っている。
 
極めつけは、
公開当時に”天才子役”の名を欲しいままにしていた
10歳のキャメロン・ブライト。
彼の人選は絶対であり、
ニコールとのコラボレイションも素晴らしい。
 
輪廻転生を掲げながら、
慕情の落差もしくは嘘から派生するであろう
事柄に辿り着かざるを得ない、もどかしさ。
重要な役柄を演じるアン・ヘッシュの
夜叉の如き凄味も忘れられない。 

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梅一輪二輪三輪まだ香らず 魅歌 [日記・雑感]

先週の写真。
地元・中野の名所『哲学堂』の白梅、
杉並方面『梅里公園』の紅梅をみつける。
ともに梅の見所であるが、
全く蕾の開いていない木のほうが多く、
ちいさな花が殊更に貴重に感じる。

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梅と言えば、
香りを詠んだ句が常套的であるが、
寒さのつのるなかマスク着用では、
眺めるのが精一杯。
でもでも、一歩一歩春が近づき、
疫病も遠のいていくことをひたすら願うのみ。

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一年半ぶりに、
東高円寺の中華料理店『成都』へ。
コロナ禍になり、オーナーが変わったそう。
アクリル板もしっかり立てられ、
消毒・検温・換気もきちんと為された
ブルー・スティッカー店に様変わり。

当然のことながらメニューも変わり、
鶏スープ仕立ての鍋を我がパートナーが注文。
揚げ豆腐(注文を聞いてから揚げている様子)、
肉、たっぷりの野菜や春雨入り。
美加は海老とブロッコリ炒めを注文し、シェア。
この鍋物、あったまるし、薄味でヘルシー!
ランチの食べ歩きも店を選びながら復活し、
日々のウォーキングとともに、
前向きに居続けるための糧にしていきたいな。

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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.176『奇跡』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1954年 デンマーク映画 カール・テオドール・ドライヤー監督
『奇跡』(ORDET)

空の広い田園風景から、
窓辺であどけなさの残る面差しの青年が
ベッドから起き上がるファースト・ショット。
地主の三男坊である。
彼は老齢の父親を起こし、
長男の嫁、長男が起き出す。
皆、乱心の次男がまたもや徘徊しているのかと、
案じているのである。
舞台劇さながらに徐に登場する人物たち。
無駄を省いた、静謐な画面構成。

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大きなお腹で一家を担う長男の嫁は、
幼い二人の娘を育てながら、
頑固なやもめの父親、無信仰の長男、
自らをキリストと信じ込み乱心とされる次男、
宗派の違いにより結婚を許されない娘と
恋仲になっている三男を抱えている。
彼女の気苦労を知るはずの父親は、
「息子を産むこと以外は何でも出来るんだな」などと、
残酷な言葉を吐く。然もユーモラスに!

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落胆も、希望も覆い隠して、淡々と描かれてゆく一家の運命。
”Key Person”は長男の幼い長女。
彼女の微笑みが、すべてを贖う。
無邪気な救いの微笑み。
”無垢”な存在のみが救済となるというテーマは、
この後も映画のなかで永遠に受け継がれてゆくことになる。
映画こそ、奇跡!

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