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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.225『恍惚の人』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1973年 日本映画 豊田四郎監督
『恍惚の人』
 
”恍惚”という、このうえなく
陶酔的な言葉の印象を一変させた有吉佐和子の原作と、
森繁久彌主演の映画化作品。
タイトルは流行り言葉にまでなった。
 
公開当時、我が最愛の祖母は60代前半にして
立派に主婦を務めていたし、
88歳で亡くなるまで、頭ははっきりしていた。
2016年に他界した我が父、今年89歳を迎えた我が母も然り。
義父母は言うまでもなく、しっかりしてくれている。
こう書いて、まったく自分は果報者と思わざるを得ない。
 
恍惚の人 (2).jpg 恍惚の人.jpg
 
嘗て老人性痴呆症と呼ばれた
病に蝕まれてゆく老人に扮した森繁。
撮影当時60歳に届くかどうかの
実年齢で84歳の役を、
まさに主人公が乗り移ったかのような
渾身の演技で見せる。
舅に冷遇されてきた身でありながら、
全てを引き受けることになる嫁に高峰秀子、
こちらも大熱演!
 
恍惚の人 (3).jpg
 
黒白画面に雨が降る。
傘もささず彷徨う老人の姿で始まるところが巧い。
無駄なく物語り、観客の目を離さずに、
再び雨のシーンでクライマックスとなる。
宙を追う老人の眼と不安定なカメラワークは、
観客の恐怖心を煽る。
そういえば、
フローリアン・ゼレール監督による秀作
『ファーザー』(2020)も、
ホラー映画の如き怖さがあった。
”死”も”認知症”も、未知なるものは恐ろしい。
 
羽田澄子監督はドキュメンタリー作品
『痴呆性老人の世界』(’86)
『安心して老いるために』(’90)により、
恐怖を緩和してくれた。
すべての人間の行く末の物語、
様々な角度から観るべきかと信じる。

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