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大橋美加の”シネマフル・デイズ㉑『アメリカの夜』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1973年 仏・伊 合作映画 フランソワ・トリュフォー監督・脚本・主演
『アメリカの夜』(La Nuit américaine)

恋愛映画は好きではない。
他人の恋愛を見ても面白くもなんともない。
「恋は見るよりするもの」をモットーとしてきたが、
トリュフォーだけは別!
恋愛だけを描き、これほどの総合芸術に
仕立て上げる手腕には脱帽する。
そんなトリュフォーが濃密な恋愛から離れ、
”映画”自体に捧げた唯一の作品が本作。

初めて観た当時は、「ああ、トリュフォーの『81/2』かあ・・・」と思ったが、
古い劇場用パンフレットを引っ張り出して読んだところ、
「フェリーニの芸術は別格。
   自分は映画製作の現場を映画にしたかった」との、
ご本人のコメントあり。
そうね、フェリーニ作品なら『オーケストラ・リハーサル』のテイストかも。

アメリカの夜.jpeg

トリュフォー自身が等身大の映画監督に扮し、
撮影が進行してゆく。俳優、スクリプト・ガール、カメラマン、
小道具係、メイキャップ係、プロデューサーの姿も。
そして、ハリウッドから主演女優が到着する。
監督には問題が山積み。夜な夜な、潜在的な夢にうなされる。
少年時代からトリュフォーの分身”アントワーヌ・ドワネル”を演じてきた
ジャン・ピエール・レオーはお得意の甘ったれオトコに扮し、
フランス語も話せる国際派女優ジャクリーン・ビセットは、
この一作でアート系映画にも実績を刻んだと言える。
今回、観なおして感動したのは、ジョルジュ・ドルリューのスコア!
映画への汲めども尽きぬ愛が、清冽な音の波となり心に押し寄せる!
”カーット!”


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大橋美加の”シネマフル・デイズ⑳『アニー・ホール』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1977年 アメリカ映画 ウディ・アレン監督・脚本・主演
『アニー・ホール』(ANNIE HALL)

本作は避けようかなと考えていた。
拙著『気まぐれレディのジャズ・イン・シネマ』、NHK-FM、
さまざまなところで語りつくした気がしたから。
う~ん、でも、何年かぶりでもう一度、観てみよう。

冒頭、ウディ扮する主人公アルビーが観客に語る、
グルーチョ・マルクスのジョークがケッサク。
「ネタはフロイト」とおまけ付き。
映画館に並ぶ列、後ろの男がフェリーニをこき下ろし、
怒り心頭の主人公に思いきり、同調したくなる!
ウディのフェリーニとベルイマンへの傾倒ぶりも示され、
のちの作風にも繋がってゆく。

アニー・ホール.jpg

コメディ作家であったウディが、
ドラマ要素も重視する作風へのターニング・ポイントとなった一作。
それでオスカー四部門は快挙!
授賞式の日もニューヨークを離れなかったという逸話は語り草である。
ウディは自らクラリネットを演奏し、
ディキシーランド・ジャズ・バンドを率いてライヴ活動もしていた。
ニューヨークで彼のバンドを聴き、すこし会話したことを想い出す。
アニーを演じたダイアン・キートンが劇中で歌うジャズソング
”It Had to be You" "Seems Like Old Times"
アルビーとアニーの恋の顛末を説明してくれるかのような選曲である。
”It Had to be You"を、
今は亡きレイ・ブライアントの伴奏で
ニューヨーク録音した想い出がある。
今度はいつ歌えるかなあ・・・

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大橋美加の”シネマフル・デイズ⑲『悪魔の美しさ』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1950年 フランス映画 ルネ・クレール監督『悪魔の美しさ』(La Beauté du diable)
 
”ア”から始まる映画、この作品、長年忘れていた!
クレールがファウストの物語をゲーテの戯曲から離れて翻案した、ファンタジー。
才人であり”醜おとこスター”と呼ばれたというミシェル・シモンと、
1950年代のフランス映画界を代表する美男子ジェラール・フィリップの共演。
 
悪魔の美しさ.jpeg 悪魔の美しさ②.jpg
 
人生の愉しみを知らず、学問に没頭してきたファウスト博士に、
悪魔の手下メフィストフェレスの囁きが聞こえる。
さて、悪魔はどんな姿で現れるのか・・・?
達者な曲者俳優シモンに向こうを張って、
いきいきと美貌を振り撒くフィリップ。
コスチュームも七変化!
変身願望や未来予知、通常は叶わない魔法は、
果たして人を幸せにするのだろうか。
老若男女が楽しめて重くならない、
往年のフランス映画のなかではユニークな一作かも。
 
そうそう、ミシェル・シモンといえば、
ジャン・ルノワール作品『素晴らしき放浪者』の名演を想い出した!
ジェラール・フィリップのFAVORITEはモジリアニに扮した
『モンパルナスの灯』、うわあ、観なおしたい作品ぞくぞく・・・

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大橋美加の”シネマフル・デイズ”⑱『赤い砂漠』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1964年 伊・仏 合作映画 ミケランジェロ・アントニオーニ監督
『赤い砂漠』(IL DESERTO ROSSO)
 
澱んでいる。時が動かず、進まない。
アントニオーニ作品には常に気怠さが付き纏うが、
 本作は初のカラー作品であり、改めて色彩感覚に感心する。
いや、こだわり抜いたのか?
 工業都市ラヴェンナの河原を、
幼い息子を連れてヒロインが歩いてくる。
アントニオーニのミューズとして知られたモニカ・ヴィッティ。
赤毛にグリーンのコートが映える。
彼女は工員らしき男が立ち食いしていたパンをお金を出して譲り受け、
人目を気にしながら草陰で貪る。この怖さ、唐突!
 
赤い砂漠②.jpg 赤い砂漠.jpg
 
心の病は見えない。本当に病んでいるのか、
それとも病んでいると思い込みたいのか。
 何不自由ない人妻の心の闇を、
現実とも妄想とも受け取れる描き方をしていくアントニオーニ。
わざとフォーカスを合わせないカメラワークにも、
全てが観客に委ねられていることが見てとれる。
 
唯一、パッキリと美しく映し出されるのが、
ヒロインが幼い息子に聞かせる物語を映像で具現化するシーン。
目の覚めるような海の色、褐色の肌の少女。
そして、タイトル・バックに流れる、
あたかもセイレーンの歌のような声・・・
アントニオーニは決して”FAVORITE”ではないが、
たまに観かえすと、価値を再確認できる映画作家である。

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大橋美加の”シネマフル・デイズ”⑰『アモーレス・ぺロス』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

大橋美加の”シネマフル・デイズ”⑰『アモーレス・ぺロス』
2000年 メキシコ映画 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督
『アモーレス・ぺロス』(Amores Perros)

イニャリトゥが母国メキシコ時代に作った原点とも言える一作。
疾風の如く、返り血を浴びて滑り出す冒頭!
原題をそのまま片仮名にしたタイトル、
意味は”犬のような愛、惨めな愛”という。

いくつかのプロットが説明なしに別途に描かれ、
何処かで繋がっていくというつくりは、
優れた群集劇に存在し、
往年のロバート・アルトマンから、
近年のポール・ハギス、
ひいてはあのイエジー・スコリモフスキ作品にさえ見られ、
珍しいことではないが、
本作はテーマが”犬”(perros)であるということ、
これはたぶん、類想がない。

アモーレス・ぺロス.jpg アモーレス・ぺロス3.jpg アモーレス・ぺロス4.jpg 

兄嫁に惚れてしまい、闘犬で金を作ろうとする弟。
不倫の恋がやっと実ろうとしている犬好きのスーパー・モデル。
たくさんの犬を引き連れた謎めいた老人。
三つのストーリーがそれぞれの速度で進んでゆく。

本作でオカボレ弟に扮したガエル・ガルシア・ベルナルは
国際的スターとなり、イニャリトゥは今ではオスカー監督となり、
今後の映画界を背負って立つひとりに。
彼の紡ぎだす物語には、決して癒せぬ痛みがある。
そして、それでも生き続ける人間の宿命を突きつけてくれるから、
魂に訴えかけるのだろう。


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