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大橋美加のシネマフル・デイズ ブログトップ
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"大橋美加のシネマフル・デイズ”No.226『恋人たちの予感』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1989年 アメリカ映画 ロブ・ライナー監督 
(When Harry Met Sally)
 
ジャズソング満載のラヴ・コメディ。
膨大な台詞の量とも相まって、ウディ・アレン作品と比較したくもなるが、
ノーラ・エフロンの脚本により、其処は女性ウケするように抑制が効いている。
メグ・ライアンは本作のヒロイン・サリー役を得て以降、
「ラヴ・コメディの女王」と呼ばれ、
暫くハリウッドに君臨することとなった。
 
恋人たちの予感.jpg
 
かの“一人エクスタシー演技“も、
キュートなメグのキャラクターによる勝利にほかならない。
セクシー女優であったなら、目の遣り場に困るというもの。
 
恋人たちの予感 (3).jpg
 
もう一人の主人公ハリーを演じるのは
ロブ・ライナー監督の旧友でもあるビリー・クリスタル。
コモドア・レコーズ創設者ミルト・ゲイブラーを叔父にもつ、
ジャズにも素養のある名コメディアンである。
アカデミー賞授賞式司会の常連でもあり、
劇中でも器用に歌ってくれたりと大活躍。
場面に合わせた内容のジャズソングが散りばめられているあたり、
ビリーもハリー・コニックJRとともに音楽監修したのかしらと想像させる。
 
恋人たちの予感 (2).jpg
 
ハリーの必死のひとこと、「一日の終わりに話したいのは君なんだ!」
これってわりと、普遍の口説き文句だったりする。
テーマに使用された「彷徨ってきたけれど、やっぱり君じゃなきゃ」
というジャズソング“It Had to be You"は我がレパートリー。
大晦日のシーンにシナトラの
ペイソスあふれるヴァージョンで流れるのも決定的なんだよねえ!

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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.225『恍惚の人』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1973年 日本映画 豊田四郎監督
『恍惚の人』
 
”恍惚”という、このうえなく
陶酔的な言葉の印象を一変させた有吉佐和子の原作と、
森繁久彌主演の映画化作品。
タイトルは流行り言葉にまでなった。
 
公開当時、我が最愛の祖母は60代前半にして
立派に主婦を務めていたし、
88歳で亡くなるまで、頭ははっきりしていた。
2016年に他界した我が父、今年89歳を迎えた我が母も然り。
義父母は言うまでもなく、しっかりしてくれている。
こう書いて、まったく自分は果報者と思わざるを得ない。
 
恍惚の人 (2).jpg 恍惚の人.jpg
 
嘗て老人性痴呆症と呼ばれた
病に蝕まれてゆく老人に扮した森繁。
撮影当時60歳に届くかどうかの
実年齢で84歳の役を、
まさに主人公が乗り移ったかのような
渾身の演技で見せる。
舅に冷遇されてきた身でありながら、
全てを引き受けることになる嫁に高峰秀子、
こちらも大熱演!
 
恍惚の人 (3).jpg
 
黒白画面に雨が降る。
傘もささず彷徨う老人の姿で始まるところが巧い。
無駄なく物語り、観客の目を離さずに、
再び雨のシーンでクライマックスとなる。
宙を追う老人の眼と不安定なカメラワークは、
観客の恐怖心を煽る。
そういえば、
フローリアン・ゼレール監督による秀作
『ファーザー』(2020)も、
ホラー映画の如き怖さがあった。
”死”も”認知症”も、未知なるものは恐ろしい。
 
羽田澄子監督はドキュメンタリー作品
『痴呆性老人の世界』(’86)
『安心して老いるために』(’90)により、
恐怖を緩和してくれた。
すべての人間の行く末の物語、
様々な角度から観るべきかと信じる。

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”大橋美加のシネマフル・デイズ”No.224『恋の手ほどき』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1958年 アメリカ映画 ヴィンセント・ミネリ監督
(GIGI)

嘗て”花嫁修業”という言葉があったっけ。
でも、”愛人修業”なんて聞いたことないなあ!
仏・米ハーフでありバレリーナ出身、
’50年代のハリウッド・ミュージカルで重宝されたレスリー・キャロンが、
20代後半にさしかかりながら、
コレット原作の15歳のヒロイン・ジジに扮する。

モーリス・シュヴァリエがフランス語訛のアクセントで歌い出す滑り出し。
甥のルイ・ジュールダンともに、
新鮮なアフェアを求める富豪である。
時は1900年のパリ。
花嫁より愛人を所望する殿方に相対するのは・・・?

恋の手ほどき (3).jpg 恋の手ほどき (2).jpg

赤の壁紙に赤の家具が並ぶアパートメントに、
祖母と母と暮らすジジ。
女系一家に追い打ちをかけるのは
嘗ての美女・大叔母の存在。
男性不在のこの一家、どうやら我が国でいえば
”花街の母”の世界かなとわかってくる。
33歳のプレイボーイと15歳の花街娘、最後に笑う者は?

恋の手ほどき.jpg

久々に観なおし、レスリーの演技に
ジュディ・ガーランドの影響を感じた。
ミュージカル化にはコミカルな味を出せる女優が不可欠であり、
なにしろ監督はジュディの夫君であったヴィンセント・ミネリ。
フェミニストが憤慨しそうなストーリーも、
無難にオブラートでくるまれている。

パリを舞台に仕立てられたミュージカルは
同じくレスリーがジーン・ケリーと共演した『巴里のアメリカ人』(’51)
ケリーが三人の美女と相まみえる、『羅生門』をモチーフにした『魅惑の巴里』(57’)
フランク・シナトラ、シャーリー・マックレーンに、ジュールダンが絡む『カンカン』(’60)など、
衣裳やプロダクション・デザインも十分に楽しめる。
どうぞご覧あれ!

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"大橋美加のシネマフル・デイズ”No.223『好色一代男』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

1961年 日本映画 増村保造監督
『好色一代男』
 
井原西鶴の原作を市川雷蔵が演じる。
細面に華奢な体つき、
口を開ければ”おなご”を誉めそやす軽口ばかりの
大店のぼんぼん世之介。
 
けちん坊の父親に女中同然の使われかたをしている地味な母親。
この両親で、まともな息子に育つはずがないと、世之介に同情票あり。
「おなごたちには、おかんのようになって欲しくない、おなごは大事にせなあかん」
遊女から人妻まで、目に入る女は口説かずにいられない世之介。何処まで本気?
意外に厭味のない雷蔵の演技のお陰で、ヒョイヒョイと進む物語。
 
 好色一代男 (2).jpg好色一代男.jpg
 
水谷良重、中村玉緒、そして増村監督のミューズであった
若尾文子などなど、
衣擦れの音とともに、喘ぐ女たち。
女を愛することを生きがいとしながら、
世之介に愛された女たちには常に死の影がつきまとう皮肉。
殊に、藤原礼子が扮した浪人の後家・お梶の
狂乱シーンに於ける性愛への執着は見どころ。
 
ブラック・ユーモア満載の悲喜こもごも、
ハッピー・エンディングのないことが見え始め、
赤い腰巻をなびかせての出奔と相成る。
人間同士の色事に飽いた末、
お次は人魚と契るかと想像を駆られるラストも可笑しい。

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"大橋美加のシネマフル・デイズ”No.222『コッポラの胡蝶の夢』 [大橋美加のシネマフル・デイズ]

2007年 米・独・伊・仏・ルーマニア合作映画
フランシス・フォード・コッポラ監督
(Youth Without Youth)
 
幻想譚という謳い文句を見るにつけ心惹かれるが、
映像化となると苦労の種に違いない。
フランシス・F・コッポラが8年間映画製作をせず、
66歳にして欲求不満に苛まれていたときに出会った
このうえなく幻想的な物語である本作の原作は、
世界的な宗教学者ミルチャ・エリアーデによるもの。
 
コッポラの胡蝶の夢 (3).jpg コッポラの胡蝶の夢 (2).jpg
 
人間にとって永遠の願望とも呼ぶべき出来事が、或る男に降りかかる。
悲劇のあとの余りに唐突な変化に、男の運命は動かされてゆく。
主人公ドミニクに扮するのは、演技派ティム・ロス。
小柄な体躯に面長、くぼんだ目元、
エキセントリックな役柄が似合うこの名優は、
あっという間に観客を”幻想譚”に引きずり込む。
人は何処から来て、何処へ向かうのか。
私たちの人生の真の意味とは?
 
コッポラの胡蝶の夢.jpg
 
CGを押し出しすぎるとSFの印象が濃くなり、
力み過ぎるとホラーまがいにもなりがちな題材を、
抑制を効かせた演出で仕上げたコッポラ。
 
『ゴッド・ファーザー』(’72)の栄光を持ち出すまでもない立場でありながら、
資金繰りせずに自作を自費で作りあげるインディーズ精神に立ち還ったことに拍手!
美加がコッポラを見直した、渾身の一作である。
 

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